序節 監督職員の立場及び業務
1.0.1 監督職員の立場
工事の監理は、契約図書に基づいて良好な施工品質を確保するために実施するものであり、官民を問わず建築士法に基づいて業務を実施する必要がある。さらに、会計法又は地方自治法においては、契約の適正な履行を確保するため必要な監督を実施しなければならないことが定められており、官公庁施設の施設を実施している国又は地方公共団体等において監督を命ぜられた職員は関係法令等に従い、その職務を遂行しなければならない。ここでは、国の職員が監督職員に任命された場合について記述する。
監督職員は、監督業務の内容を十分理解するとともに、その遂行に当たっては、どのような立場にあるかを認識していなければならない。すなわち、監督職員と受注者等の関係、国の組織の中での立場を認識して業務に当たる必要がある。さらに、建築技術者としての心構え等について十分に承知していなければならない。
(ア) 受注者との関係
受注者とは、発注者と請負契約を結んだ相手方のことであり、請負工事は、受注者が契約したとおりの工事を完成させるために、受注者及び発注者が対等の立場における合意に基づいて契約されている。工事途中で当初の契約を変更することはあるが、契約変更を含め受注者は契約図書どおりの工事を完成するということになる。
契約図書(1.1.1(6)参照)の一部である工事請負契約書には、受注者に対する監督職員の権限、職務等についても定められている。一方、会計法(1.0.2(ア) 参照)には「契約の適正な履行を確保するため必要な監督をしなければならない。」と定められている。会計法で定める監督の職務を遂行するためには、工事が契約図書に定められたとおり適正に行われるように、指示・承諾・協議・謁整等の業務を確実に行うことが必要となる。
工事の中で、受注者等が適正であると主張するものでも、監督職員には適正と判断できない場合がある。このような場合には、両者の協議が必要になるが、判断の基準は全て契約図書である。
なお、契約は双方が対等であることを認め合った、いわゆる双務契約であるが、安易な妥協や譲歩があってはならない。しかし、双務契約である以上契約の内容に盛り込まれていないことを強制してはならないし、感情的な対立も避けるようにしなければならない。監督職員は、常に良識をもって厳正に問題の解決を図るようにしなければならない。
(イ) 国等の発注組織における監督職員・検査職員の立揚
監督職員は、国の組織の一員として一般職員が従わなければならない一般の行政法令等のほかに、監督業務という特別な職務を担っているので、「予算執行職員等の責任に関する法律」等により、監督職員に適用される「予算執行職員」としての義務と責任を持つことになる。
すなわち、職員が所属する部・課等の組織のほかに、監督業務を行うための組識体制がつくられていて、総括監督員、主任監督員及び一般の監督員により構成され、それぞれの業務も定められている(1.0.2(エ) 参照)。いわば、監督職員は二重の組織に属していることになるので、それぞれの立場を混同して、監督業務の運用に支障を生じることがあってはならない。
監督職員の属する組織は上述のとおりであるが、建設工事は多くの人の協同作業によって進められるものであり、特に人の和を重んじ、良い公共建築物を造るという点で、心を一つにして仕事に取り組めるようにする必要がある。受注者等、関連専門工事業者はもちろん、設計者、入居官署の担当者、また、必要に応じて 近隣住民等関係者と広く意思の疎通を図り、相互の信頼の上に立って業務を行う ように努力することが望まれる。
公共工事については、平成13年に施行された「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(以下、この章では「入契適正化法」という。)において、情報の公表、不正行為に対する措置、施工体制の適正化を図るための措置が規定され、さらに、平成17年に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(以下、この章では「公共工事品確法」という。)において、工事の品質確保に関する基本的理念と国等の責務が明確にされた。監督・検査分野については、特に検査について、会計法等に基づく給付のための検査と技術検査が明確に分離され、また、発注者が行う監督・検査及び施工状況の確認・評価が基本方針で明確にされた。
さらに、工事の監督・検査に関する基準、工事の技術検査要領、工事の成績評定要領、そして施工体制把握の要領は「公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針」(以下、この章では「適正化指針」という。)による公表対象である。このように、公共工事の入札・契約の適正な実施及び品質確保が、ー工事にとどまらず公共工事全体に対する国民の信頼、そして建築業の健全な発展につながるものとして位置付けられたことに関係者は留意すべきである。
平成26年に「公共工事品確法」は、担い手3法として、「入契適正化法」及び「建設業法」とともに改正され、計画的な発注、適切な工期設定、適切な設計変更等の発注者の責務が明確化された。このことを踏まえ、監督職員においては、適切な設計変更等が行えるように調整等を行うことが重要になっている。
さらに、令和元年には、新・担い手3法として改正され、災害時の緊急対応の充実強化、働き方改革への対応、生産性向上への取組、調査・設計の品質確保の内容が見直された。営繕工事における働き方改革の取組として、適正な工期設定、工事関係図書等に関する効率化の徹底が行われている。
参考として、国土交通省の営繕工事における建築工事監理業務の業務委託について述べる。国土交通省大臣官房官庁営繕部では、透明性、客観性の高い契約関係を構築するとともに、営繕工事の適切な品質確保をより一層図るために、平成 13年2月15日付で「建築工事監理業務委託契約書」及び「建築工事監理業務委託共通仕様害」を制定し、この業務委託をより適正に実施するために「建築工事監理業務委託の基本方針」についても定めている。
工事監理業務を委託する場合の営繕工事においては、発注者の代理人としての監督職員のほかに、工事監理業務の受注者等による確認が行われる。この体制において、監督職員と工事監理業務に係る発注者の代理人としての調査職員に同一職員を任命しており、当該職員が工事請負契約と監理業務委託契約とによりその職務を使い分けつつ、意思疎通の円滑化が図られるようにしている。工事監理業務を委託する場合(設計意図伝達業務を設計者に委託し、設計者とは異なる者に工事監理業務を委託する場合)における工事関係者の役割を図1.0.1に示す。
図1.0.1 第三者監理方式における工事関係者の役割と責任
(監督職員が工事監理業務の調査職員を兼務した場合の例)
(ウ) 公共建築物にかかわる建築技術者としての心構え
最近の建築工事(改修を含む)を取り巻く環境の変化には著しいものがある。次はその例である。
① 地球環境への配慮(温室効果ガス排出の削減、特定フロン対策、資源の有効利用、建設副産物の発生抑制・再使用・再利用等の促進、環境マネジメントシステムの導入等)
② 公共工事品確法と入札制度の改定(公共工事への総合評価落札方式の適用、技術提案等)
③ 公衆災害の防止と安全対策の推進(工事騒音・振動の抑制、建設重機の転倒事故防止、エスカレーター・エレベーター利用者の事故防止等)
④ 労働環境の改善(週40時間労働、週休2日制の推進、各工程の適正な施工期問の確保、休憩・リフレッシュスペースの確保等によるクリーンなイメージの現場環境整備等)
⑤ 受注者等による品質管理(鋼材等の品質確認、工場加工における品質確保、品質マネジメントシステムの導入等)
⑥ 情報化対策、新技術の開発と導入(情報共有システム、ASP、VE提案の採用等)
⑦ 生産性の向上(省人化・施工合理化技術、ICT、BIM、電子小黒板、現場作業の軽減と工場生産化、工事関係書類の簡素化、監督職員の遠隔臨場)
⑧ コスト縮減(契約後VEの検討、海外材料・新技術・新工法の採用、施工の合理化、適正工期の確保等)
⑨ 規制緩和への取組み(性能仕様としての規定、国際規格の認証、海外資機材の使用等)
⑩ 健康安全環境の保全(石綿(アスベスト)・鉛・ホルムアルデヒド・ダイオキシン等有害物質への配慮、産業廃棄物の適正処理等)
監督職員は、契約図書に従って工事を完成させるだけでなく、これらの課題に対して、受注者等とともに個々の現場で、誠意をもってその解決を図る努力をしていくことが求められており、それらの努力により、建設産業としての魅力が生まれてくるのである。また、問題の解決に当たっては、個々の現場での対応だけではなく、公共建築物を建設する組織として対応し、検討していかなければならないものも多い。
1.0.2 監督及び監督職員に関する関係法令
監督業務に関係する法律、基準等を国土交通省の場合について次の(ア) から(タ) までに挙げる。(ア) から(シ) までの法令等については、関連箇所の抜粋等を示す。
(ア) 会計法
(イ) 予算決算及び会計令
(ウ) 契約事務取扱規則
(エ) 地方建設局請負工事監督検査事務処理要領
(オ) 予算執行職員等の責任に関する法律
(カ) 予算執行職員等の責任に関する法律について
(キ) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律
(ク) 公共工事の品質確保の促進に関する法律
(ケ) 建築基準法、同施行令、関連告示・通達
(コ) 建築士法
(サ) 建築士法第25条規定、平成31年1月21日国土交通省告示第98号
(シ) 工事請負契約書
(ス) 労働基準法
(セ) 労働安全衛生法
(ソ) 消防法
(タ) 人事院規則
(ア) 会計法
会計法の抜粋を次に示す。
会 計 法
(昭和22年3月31日 法律第35号 最終改正平成29年6月2日)
第29条の11
契約担当官等は、工事又は製造その他についての請負契約を締結した場合においては、政令の定めるところにより、自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するため必要な監督をしなければならない。
(イ) 予算決算及び会計令〈通称「予決令」〉
予算決算及び会計令の抜粋を次に示す。
予算決算及び会計令
(昭和22年4月30日 勅令第165号 最終改正令和4年6月15日)
(監督の方法)
第101条の3 会計法第29条の11第1項に規定する工事又は製造その他についての請負契約の適正な履行を確保するため必要な監督(以下本節において「監督」という。)は、契約担当官等が、自ら又は補助者に命じて、立会い、指示その他の適切な方法によって行なうものとする。
参照 【補助者(予貨法2①十二)[監督の実施細目(契約規則21)、実施細目制定事務の委任(会計規則39)、国土交通大臣が定める一般準則(監督検査要領)[監督ー監督の体制(監督検査要領第3)、監督職員の職務等(契約規則18、監督検査要領第4・第5・第11・第12)
(ウ) 契約事務取扱規則
契約事務取扱規則の抜粋を次に示す。
契約事務取扱規則
(昭和37年8月20日 大蔵省令第52号最終改正令和2年12月4日)
(監督職員の一般的職務)
第18条 契約担当官等、契約担当官等から監督を命ぜられた補助者又は各省各庁の長若しくはその委任を受けた職員から監督を命ぜられた職員(以下「監督職員」という。)は、必要があるときは、工事製造その他についての請負契約(以下「請負契約」という。)に係る仕様書及び設計書に基づき当該契約の履行に必要な細部設計図、原寸図等を作成し、又は契約の相手方が作成したこれらの書類を審査して承認をしなければならない。
2 監督職員は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理、履行途中における工事製造等に使用する材料の試験若しくは検査等の方法により監督をし、契約の相手方に必要な指示をするものとする。
3 監督職員は、監督の実施に当たっては、契約の相手方の業務を不当に妨げることのないようにするとともに、監督において特に知ることができたその者の業務上の秘密に属する事項は、これを他に漏らしてはならない。
(監督職員の報告)
第19条 監督職員は、関係の契約担当官等と緊密に連絡するとともに、当該契約担当官等の要求に基づき又は随時に、監督の実施についての報告をしなければならない。
契約事務取扱規則
(エ) 地方建設局請負工事監督検査事務処理要領
監督については、その体制、業務内容、任命基準、監督に関する図書等が定められている。
なお、現在、地方建設局は地方整備局に組織変更されているが、基本となる会計法令の該当する部分は改正されていないことなどから、事務処理要領の改正は行われず、従前の地方建設局の各部等(港湾航空関係を除く。)が発注する工事については、この事務処理要領が適用されている。
事務処理要領の抜粋を次に示す。
地方建設局請負工事監督検査事務処理要領
(昭和42年3月30日 建設省厚第21号 最終改正令和3年3月31日)
(監督業務の分類)
第4 監督業務は、監督総括業務、現場監督総括業務及び一般監督業務に分類するものとし、これらの業務の内容は、それぞれ次の各号に掲げるとおりとするものとする。
ー 監督総括業務
ィ 工事請負契約書(平成7年6月30日付け建設省厚契発第25号)に基づく契約担当官等の権限とされる事項のうち契約担当官的が必要と認めて委任したものの処理
ロ 契約の履行についての契約の相手方に対する必要な指示、承謡又は協議で重要なものの処理
ハ 関連する2以上の工事の監督を行なう場合における工事の工程等の調整で重要なものの処理
二 工事の内容の変更、一時中止又は打切りの必要があると認めた場合における当該措置を必要とする理由その他必要と認める事項の契約担当官等(法第29条の3第 1項に規定する契約担当官等をいう。以下同じ。)に対する報告
ホ 現場監督総括業務及び一般監督業務を担当する監督職員の指揮監督並びに監督業務の掌理(しょうり)
二 現場監督総括業務
イ 契約の履行についての契約の相手方に対する必要な指示、承諾又は協議(重要なもの及び軽易なものを除く。)の処理
ロ 設計図、仕様書その他の契約関係図書(以下「契約図書」という。)に基づく工事の実施のための詳細図等(軽易なものを除く。)の作成及び交付又は契約の相手方が作成したこれらの図書(軽易なものを除く。)の承諾
ハ 契約図書に基づく工程の管理、立会い、工事の実施状況の検査及び工事材料の試験又は検査の実施(他の者に実施させ、当該実施を確認することを含む。以下阿じ。)で重要なものの処理
二 関連する2以上の工事の監督を行なう場合における工事の工程等の調整(重要なものを除く。)の処理
ホ 工事の内容の変更、一時中止又は打切りの必要があると認めた場合における当該措置を必要とする理由その他必要と認める事項の監督総括業務を担当する監督職員に対する報告
へ 一般監督業務を担当する監督職員の指揮監督並びに現場監督総括業務及び一般監督業務の掌理
三 一般監督業務
イ 契約の履行についての契約の相手方に対する必要な指示、承諾又は協議で軽易なものの処理
ロ 契約図書に基づく工事の実施のための詳細図等で軽易なものの作成及び交付又は契約の相手方が作成したこれらの図書で軽易なものの承諾
ハ 契約図書に基づく工程の管理、立会い、工事の実施状況の検査及び工事材料の試験又は検査の実施(重要なものを除く。)
ニ 工事の内容の変夏、一時中止又は打切りの必要があると認めた場合における当該措置を必要とする理由その他必要と認める事項の現場監督総括業務を担当する監督職員に対する報告
ホ 第6第4項の規定により任命された監督員にあっては、第6第6項の規定により任命された監督員の指揮監督及び一般監督業務の掌理
(監督職目の担当業務)
第5 本官契約又は分任官契約の監督を行う監督職員は、総括監督員、主任監督員及び監督員とし、それぞれ監督総括業務、現場監督総括業務及び一般監督業務を担当するものとする。(第2項省略)
(監督に関する図書)
第12 監督職員は、次の各りに掲げる図書(契約の相手方から提出された図書を含む。)をそれぞれの担当事務に応じて作成し、及び整理して監督の経緯を明らかにするものとする。
ー 工事の実施状況を記載した図書
二 契約の履行に関する協議事項(軽易なものを除く。)を記載した書類
三 工事の実施状況の検査又は工事材料の試験若しくは検査の事実を記載した図書
四 その他監督に関する図書
地方建設局請負工事監督検査事務処理要領
(オ) 予算執行職員等の責任に関する法律〈通称「予責法」〉
監督職員に任命された者は、「予責執行職員」となるので、場合によってはその責任を問われることもあり得ることを示している。
予責執行職員等の責任に関する法律の抜粋を次に示す。
予責執行職員等の責任に関する法律
(昭和25年5月11日 法律第172号 最終改正令和元年5月31日)
(定義)
第2条 この法律において「予責執行職員」とは、次に掲げる職員をいう。
ー 会計法(昭和22年法律第35り)第13条第3項に規定する支出負担行為担当官
二 会計法第13条の3第4項に規定する支出負担行為認証官
三 会計法第24条第4項に規定する支出官
四 会計法第17条の規定により資金の交付を受ける職員
五 会計法第20条の規定に基き繰替使用をさせることを命ずる職員
六 会計法第29条の2第3項に規定する契約担当官
七 前各号に掲げる者の分任官
八 前各号に掲げる者の代理官
九 会計法第46条の3第2項の規定により第一号から第三号まで又は前三号に掲げる者の事務の一部を処理する職員
十 会計法第29条の11第4項の規定に基づき契約に係る監督又は検査を行なうことを命ぜられた職員
十一 会計法第48条の規定により前各号に掲げる者の事務を行う都道府県の知事又は知事の指定する職員
十二 前各号に掲げる者から、政令で定めるところにより、補助行としてその事務の一部を処理することを命ぜられた職員
(予算執行職員の義務及び責任)
第3条 予算執行職員は、法令に準拠し、且つ、予算で定めるところに従い、それぞれの職分に応じ、支出等の行為をしなければならない。
2 予算執行職員は、故意又は重大な過失に因り前項の規定に違反して支出等の行為をしたことにより国に損害を与えたときは、弁償の責に任じなければならない。
3 前項の場合において、その損害が2人以上の予算執行職員が前項の支出等の行為をしたことにより生じたものであるときは、当該予算執行職員は、それぞれの職分に応じ、且つ、当該行為が当該損害の発生に寄与した程度に応じて弁償の責に任ずるものとする。
(予算執行職負の弁償責任の転嫁)
第8条 予算執行職員は、その上司から第3条第1項の規定に違反すると認められる支出等の行為をすることの要求を受けたときは、書面をもって、その理由を明らかにし、当該上司を経て任命権者(当該上司が任命権者(宮内庁長官及び外局の長であるものを除く。)である場合にあっては直ちに任命権者、当該上司が宮内庁長官又は外局の長である任命権者である場合にあっては各省各庁の長)にその支出等の行為をすることができない旨の意見を表示しなければならない。
2 予算執行職員が前項の規定によって意見の表示をしたにもかかわらず、さらに、上司が当該職員に対し同一の支出等の行為をすべき旨の要求をしたときは、その支出等の行為に基く弁償責任は、その要求をした上司が負うものとする。
予算執行職員等の責任に関する法律
(カ) 予算執行職員等の責任に関する法律について
「予算執行職員等の責任に関する法律について」の抜粋を次に示す。
予算執行職員等の責任に関する法律について
(昭和25年7月3日 大蔵省計発第484号)
標記の件について会計検査院とも打合の結果現在の段階においてとりあえず別紙のとおり法律の解釈と運用方針が決定したから通知する。
よってその趣旨の徹底並びに事務処理に遺憾のないことを期せられたい。
別 紙
予算執行職員等の責任に関する法律の解釈及び運用方針
第2条(定義)
2 「補助者としてその事務の一部を処理することを命ぜられた職員」とは、第1項第ー号から第七号〔注・現在の第八号にあたる〕までに掲げる者から直接その所掌すべき事務の範囲を明示された書面による特別の命令を受けた職員のみをいい、人事系統からする勤務辞令はここに言う命令とはみない。又その補助者の実際上の補助者もここにいう補助者ではない。補助力者の再補助者は認めない。従ってその取扱として補助者は当該予算執行員を直接補助する身分と地位を有する者に限ることとする。
第3条(予算執行職員の義務及び責任)
1「それぞれの職分に応じ」とは、支出負担行為担当官、同認証官、支出官等の職務の範囲を明確にしたものであって、本法により職分に応ずべきあらたな特別の義務を課したものではない。
2 「故意」とは、支出等の行為が法令又は予算に違反していることを認識することである。その行為の結果国に損忠を与えることの認識を必要としない。
3 「重大な過失」とは、全良な管理者の注意を著しく欠くことである。善良な竹理者の注意義務とは、社会の一般的観念において、その戦にある人に当然要求せられる注意義務をいい、特定の個人の注意能力が標準となるものではない。
4 補助者が、補助を命ぜられた範囲内の事務について、その内容が専ら補助者の責に帰すべき性質のものであるときは、補助者が全責任を負うことになる。
5 「損害」とは経済的な実損をいう。従って反対給付があったときの当該処分価格の如きは、すくなくとも損害とは見られない。
第8条(予算執行職員の弁償責任の転嫁)
1 「上司」とは予算の執行に関し、予算執行職員の指揮監督権を有する者をいい、上司の上司も含まれるが、国の予算の執行を掌る史員に対して都道府県又は特別市の長は、「上司」ではない。
2 予算執行職員が支出等の行為をすることができない旨の意思表示をしたのにさらに上司からの要求によりやむをえず支出等の行為をした場合において、その責任を免れるためには、上司からの要求があったことを証明するに足る資料を後日のためととのえて置くことが望ましい。
予算執行職員等の責任に関する法律について
(キ) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律人契適正化法の抜枠を次に示す。
公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律
(平成12年11月27日 法律第127号 最終改正 令和3年5月19日)
(目的)
第1条 この法律は、国、特殊法人等及び地方公共団体が行う公共工事の入札及び契約について、その適正化の基本となるべき事項を定めるとともに、情報の公表、不正行為等に対する措置、適正な金領での契約の締結等のための措置及び施工体制の適正化の措置を講じ、併せて適正化指針の策定等の制度を整備すること等により、公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図ることを目的とする。
(ク) 公共工事の品質確保の促進に関する法律
公共工事においては、調達時点で品質を確保できる物品購入等とは異なり、価格だけでなく技術や品質を含めた評価のもとで、他全な競争が行われることが重要な課題であるため、平成17年4月に、公共工事品確法が施行され、公共工事の品質確保について、基本理念や国等の責務が明らかにされた。
公共工事品確法の抜粋を次に示す。
公共工事の品質確保の促進に関する法律
(平成17年3月31日 法律第18号 一部改正 令和元年6月14日)
(目的)
第1条 この法律は、公共工事の品質確保が、良質な社会資本の整備を通じて、豊かな国民生活の実現及びその安全の確保、環境の保全(良好な環境の創出を含む。)、自立的で 個性豊かな地城社会の形成等に寄与するものであるとともに、現在及び将来の世代にわたる国民の利益であることに鑑み、公共工事の品質確保に関する基本理念、国等の責務、基本方針の策定等その担い手の中長期的な育成及び確保の促進その他の公共工事の品質確保の促進に関する基本的事項を定めることにより、現在及び将来の公共工事の品質確保の促進を図り、もって国民の福祉の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「公共工事」とは、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年法律第127号)第2条第2項に規定する公共工事をいう。
(基本理念)
第3条 公共工事の品質は、公共工事が現在及び将来における国民生活及び経済活動の基盤となる社会資本を整備するものとして社会経済上重要な意義を有することに鑑み、国及び地方公共団体並びに公共工事等(公共工事及び公共工事に関する調査等をいう。以下同じ。)の発注者及び受注者がそれぞれの役割を果たすことにより、現在及び将来の国民のために確保されなければならない。
公共工事品確法では、公共工事の品質は、「経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要索をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならない。」と規定されており、公共工事の品質確保のための主要な取組みとして総合評価方式の適用を掲げている。
公共工事の品質確保を図るためには、発注者は競争参加者の技術的能力の審査を適切に行うとともに、品質の向上に係る技術提案を求めるよう努め、落礼者の決定においては、価格に加えて技術提案の優劣を総合的に評価することにより、最も評価の高い者を落札者とすることが原則となる。
総合評価方式の適用により、公共工事の施工に必要な技術的能力を有する者が施工することとなり、工事品質の確保や向上が図られ、工事目的物の性能の向上、長寿命化・維持修繕費の縮減・施工不良の未然防止等による総合的なコストの縮減、交通渋滞対策・環境対策、事業効果の早期発現等が効率的、かつ、適切に図られる。また、民間企業が技術力競争を行うことによりモティベーションの向上が図られ、技術と経営に優れた他全な建設業が育成されるほか、価格以外の多様な要素が考慮された競争が行われることで、他全な入札環境が整備される。
なお、総合評価落札方式で受注者を決定した場合は、評価に反映された技術提案について、全て契約料にその内容を記載することになるため、発注者は技術提案の履行について確認しなければならない。
施工において技術提案の内容が履行できなかった場合は、再施工を原則とするが、再施工が困難あるいは合理的でない場合は、施工できなかった評価項目の加算点に相当する契約金額の減額、違約金等の請求を行うことがある。また、工事成績評定についても、施工できなかった評価項目の加算点に応じた減点を行うことになる。
さらに、引渡し後において、技術提案の不履行が確認された場合は、再施工の義務等を課すとともに、工事成績評定の減点を行うことがある。
契約後の措置等については、入札説明書等に記載しているので確認する必要がある。
(ケ) 建築基準法
建築主は、第5条の6第1項の建築士の設計によらなければならない建築物の工事をする場合には、工事監理者を定めなければならず、これに違反した工事はすることができないとしている。
(コ) 建築士法
建築物の災害等に対する安全性を確保し、建築物の質の向上と良好な市街地環境の形成を図ることにより、国民の生命及び財産の保護と公共の福祉の増進に資するためには、建築物の設計及び工事監理を適正に行うことが必要である。このため、この法律では建築物の設計及び工事監理に携わる建築技術者の資格並びに業務を定めている。
(サ) 建築士法第25条規定、平成31年1月21日 国土交通省告示第98号
「建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準」において、工事監理等に関する業務と報酬の算定方法等を定めている。
別添ー第2項「工事監理に関する標準業務及びその他の標準業務」の第一号と第二号で示す項目は、基本的に民間(旧四会)連合協定工事標準請負契約約款の第9条(監理者)の各項目と整合するものである。
建築士法による工事監理者の法定業務とは、第一号「工事監理に関する標準業務」の表の項目(4)から(6)までである。項目(4)「工事と設計図書との照合及び確認」の業務内容に示す「確認対象工事に応じた合理的方法」として、「工事監理ガイドライン」が示されている。
なお、工事請負契約書第9条(監督職員)第2項第二号の一部の業務は、告示第98号の別派ー第1項第三号の「工事施工段階で設計者が行うことに合理性がある実施設計に関する標準義務」に位置づけられている。
建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準
(平成31年1月21日 国土交通省告示第98号)
別添ー
2 工事監理に関する標準業務及びその他の標準業務
ー 工事監理に関する標準業務(本文及び表の業務内容欄省略)
二 その他の標準業務(本文及び表の業務内容欄省略)
(シ) 工事請負契約書(平成7年6月30日建設省厚契発第25号、最終改正令和3年3月26日。以下、この節では「契約書」という。)
契約書第9条(監督職員)で発注者権限のうち監督職員が担当する権限の手続きと範囲を規定する(図1.0.1参照)。監督職員の権限等は、総括監督員、主任監督員及び監督員のそれぞれの権限(役割分担)について受注者に通知することで有効になる。運用基準と関連する通達類をもとに適用される。
1.0.3 用語の解説
「標仕」1.1.2で定められている以外で、本書の中で使われている用語の解説を次に示す。
(ア) 確認
工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかを確かめる監督職員の行為のことをいう(「標仕」においては、受注者が行う行為に対して使用される。ほかには、会計法等による給付の確認に該当する事項及び工事契約に直接かかわらない分野で行う監督職員の行為に対しても使用される。)。
(イ) 調整
監督職員が関連する工事との間で、工程等について相互に支障がないように協議し必要事項を受注者等に対し指示することをいう。ほかには、工事契約に直接関わらない分野で行う監督職員の行為に対しても使用している。
また、設計図書に基づいて、工事目的物が具体化されていく段階で生じる数々の問題を適切に処理し、工事の進捗を円滑に保つことをいう。
(ウ) 記録
工事における監督の経緯を明らかにしたものをいう(1.2.4参照)。
1.0.4 監督職員の業務の概要
(1) 監督職員の業務の概要
(ア) 監督職員の基本的業務を大別すると次のようになる。
(a) 予算執行職員として、契約図書に基づく履行の確認、調整及びそれらの記録
(b) 工事監理者として、設計図書の具現化の段階における確認、調整及びそれらの記録
(c) 国の職員として、国の政策の実施における指導
入契適正化法による不正行為等に対する措置(建設業法第28条の一部、施工体制台帳の提出等の違反)、適正化指針及び関連通知に従い講ずるべき措置(特に工事契約締結から完成までの間。施工体制台帳確認や監理技術者の確認等)
公共工事品確法及び「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針について」により必要となる措置等。工事の監督(検査)及び施工状況の確認・評価等。
実施に当たっては、発注関係事務を適切に実施できる者を活用するよう努めるものとしている。
(イ) (ア) に関する監督職員の検査は数量、出来形、出来高、品質・性能がその主なものとなる。
国土交通省の監督職員が行う出来形確認は、「地方整備局営繕工事既済部分出来高算出要領(案)(平成29年3月29日 国営整第236号 国営設166号)」により、受注者が作成した出来形部分確認資料により確認するとされている。対象は監督職員の検査に合格した部分等である。
契約書第18条(条件変更等)による確認の請求が受注者より提出されたときは、契約書に従い調査のうえ、結果を受注者へ通知する。
例えば、設計図書相互の齟齬や土工事中の地中障害物の発生等が、受注者等より主任監督員に対し通知と確認の請求が提出された場合の対処は、概ね次のとおりとなる。
(a) 問題の実態を把掘する(現場に関する問題は、極力監督職員が現地で状況を把握する。)。
(b) 緊急度に応じて、まず上司へ報告する。
(c) 必要資料を作成(監督職員又は受注者等が行う。)する。この際なるべく最善と思われる処理方法を立案する。
(d) 資料を上司へ提出し、設計担当者と協議を行う。
(e) 上司からの指示を受ける。
(ウ) (イ) (b)の段階において、監督職員が自己の権限で判断、処理できると思われる場合は、調整を行った後、その調整内容を記録に残し、随時上司の閲覧を受けられるようにしておくことが大切である(1.0.7参照)。
なお、監督職員の権限については、「事務処理要領」(1.0.2(エ) 参照)に分類されている。
(エ) 発注者の代理人である監督職員の契約上の責任としては、(イ) に示す講整の結果、契約図書に基づく変更処理をする必要があると認めた場合に契約担当官等へ報告することにある。また、原設計で構造設計ー級建築士・設備設計ー級建築士による法適合確認に該当となった建築物は、設計変更においても、その必要がある。
(2) 業務遂行に当たっての注意事項
(ア) 入居官署(管理官署)、設計担当者等との打合せ
監督職員は、必要に応じて、入居官署、設計担当者等と打合せを行う。その際、発注者組織の中の職員として打合せ内容を記録し、発注者組織の内部で当該事項に関する主務課が別途存在する場合は、実務上、当該課と連絡を取って対処する必要がある。自己の権限を超えるものは、上司に報告し指示を受ける必要がある。
(イ) 受注者の自主施工の取扱い
契約書(第1条第3項)においては、「仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段については、この契約書及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、受注者がその責任において定める。」と規定されている。
しかし、受注者の施工計画によっては、契約条件どおり(工期も含まれる。)の工事目的物が得られないと判断される場合、あるいは社会的・技術的常識に反すると判断される場合には、監督職員はその理由を示して受注者に注意を与える必要がある。さらに、事態が著しく深刻な場合及び注意が受け入れられない場合には、時期を失することなく、発注者から文書による申入れを行う必要がある。
(ウ) 下請負人の通知
発注者は、工事受注者が選定した下請負人の称号又は名称その他必要事項の通知を請求することができる(契約書第7条)。また、下請負人等が工事の施工上著しく不適当と認められるとき、発注者は受注者に必要な処置をとることを請求することができる(契約書第12条)。
一定金額以上の工事を受注した受注者は、平成6年の建設業法改正により法律上の義務として施工体制台帳を整備しなければならなくなった。さらに平成26年6月の建設業法の改正により、平成27年4月から公共工事において受注者は下請け金額にかかわらず、下請業者に工事を発注した場合は、施工体制台帳の整備を行わなければならなくなった。一方、監督職員(発注者側)は入契適正化法に基づき、元請業者だけではなく、下請業者を含めた適正な施工体制の把握・点検を行うとされている。これらは、工事の進捗に伴い新規に決定する下請業者に対しても適用されるので注意が必要である。
この条項を設けているのは、実際の作業にあたる下請負人の良否が工事の出来ばえに影響を与えるので、前項と同様に契約の履行上支障がある場合には是正を求める必要があるからである。
(エ) 問題解決に当たっての監督職員の態度
会計法に、「契約の適正な履行を確保する」と規定されているとおり(1.0.2 (ア) 参照)、監督職員は問題の解決に当たっては、迅速、かつ、適正な決定を行うよう努力しなければならない。
建築工事現場において、発注段階では予見不可能であった諸問題が発生した場合、対処に必要な発注者の意思決定に時間を費やす場合があるため、実働工期が短くなり工事等の品質が確保されないケースが発生していると指摘されている。そのため、発注者はワンデーレスポンスの実施等、問題解決のための行動の迅速化を図る必要がある。
ワンデーレスポンスは、従来監督職員が実施していた「現場を待たせない」、「速やかに回答する」という対応を、より組織的、システム的なものとし、工事現場において発生する諸問題の解決に対し迅速な対応を実現し、これによって効率的な事業執行を行うことを目的とする。
(オ) 監督職員の指示及び受注者等との協議
「標仕」に「監瞥職員の指示」によると定められている事項では、発注者の代表としての監督職員を表現しているもので、監督職員が自己の権限を超えるものは、上司、関係者等とよく協議する必要がある。すなわち、指示の内容により、監督総括業務、現場監督総括業務又は一般監督業務に分類されている(1.0.2(エ) 参照)ので、それぞれの業務権限に応じた者の了解を得て指示(「標仕」1.1.2(エ) )しなければならない。また、受注者等との協謡についても、発注者の代表としての協議を意味するもので、指示の場合と同様に対応する必要がある。
1.0.5 確認業務
(1) 確認に対する心構え
1.0.4で述べたとおり、出来形・出来高や設計図書に基づく品質の承諾は、監督職員の基本的な業務である。この確認の手順としては、一般的に「標仕」に基づく品質の確認を積み重ねていくことによって、出来形の確認を行うことになる。しかし、「標仕」に規定されている事項を全て現場において確認すると、現場における作業量は膨大なものとなる。特に巡回監督の場合には、全ての確認を現場で行うことが困難である。対応として、施工工程の目的を正確に認識するとともに、工程の重要度を勘案して限られた時間・体制で効率良く、要点を見逃さないで監督ができるように常に工夫しなければならない。
平成31年国土交通省告示第98号別添ー第2項第一号の項目(4)の業務内容で、「工事施工者の行う工事が設計図書の内容に適合しているかについて、設計図書に定めのある方法による確認のほか、目視による確認、抽出による確認、工事施工者から提出される品質管理記録の確認等、確認対象工事に応じた合理的方法により確認を行う。」とされており、この「確認対象工事に応じた合理的方法」について具体的に例示する工事監理ガイドラインが策定されている。
これらを総合的に勘案して、立会い確認、書類確認等の方法、抽出による確認による場合の抽出率等を決定する必要がある。
(2) 確認業務の分類
分類は次の3項目である。これらはそれぞれ準備段階と施工段階とに分けることができる。
(a) 工事材料と品質、施工結果の検査(設計図書どおりかを確認。立会いを含む)。
(b) 工期内の完成を確認すること。
(c) 受注者の責任に属する範囲の施工内容について把握していること。
なお、工事監理を業務委託する場合は、受託者が上記業務を実施し、結果を監督職員に報告する。
(3) 準備段階
(ア) 施工段階において巡回監督による監督職員の確認を行う前提としては、受注者等による自主的管理が適切に行われていることが必要になる。このため、施工計画書等により受注者の施工体制の確認が必要となる。具体的には、「標仕」1.3.1で規定するように、実際に施工を行う下請負人と受注者(元請負人)の責任範囲がどのようになっているか、施工の管理に対してどのような取組みを行うのか、また、監督職員に対してどのように施工の報告を行うのかなどが挙げられる。
なお、国土交通省の施策に挙げられている工事の安全については、建築工事安全施工技術指針等により、必要に応じて指導を行う。
(イ) 準備段階とは、施工に先立ち、工程表、施工計画書、施工図、見本等(2節参照)により、設計図書の内容を具体化する段階である。また、これらを通して施工時期、材料、工法等を監督職員と受注者等とがお互いに確認し、そのとおりに施工することを約束しあう段階でもある。施工品質はこの処理いかんで決定するといっても過言ではない。
(ウ) 提出された図書等については、「この図書等により施工して、設計図書と違うものができないか、要求品質を満たすか又は設計図書に明記されていない箇所の記述・作図等が、明記されている部分と均衡を得ているか、さらに、将来不具合 や故障の原因となるおそれのある納まりになっていないか」という観点で確認し、承諾する。ただし、受注者等と意見が相違する点については、十分に協議するものとし、設計図書に含まれていない事項については、設計担当者とも協議し、受注者等の計画を承諾するか計画の修正を求めるか、設計変更を行う必要はないか などを適切に決定する必要がある。経緯については、記録等を取らなければならない。
(4) 施工段階
(ア) 施工計画書に従い受注者等が施工を行う段階においては、材料及び施工の確認(受入検査)も受注者等が自己の責任で行い、準備段階で定められた条件に適合することを受注者等が確認し、その確認した結果を監督職員に逐次報告して、施工を進めていくことになる。
これに対して監督職員は、受注者等の自主管理が適正であるかどうかを確認するため「監督職員の検査」を行うことになる。
(イ) 材料及び施工の確認についての詳細は、4節及び5節を参照する。
(5) 確認業務の体系
前述した確認業務内容をまとめると、図1.0.2のような体系になる。
図1.0.2 確認業務の体系
1.0.6 調整業務
(1) 主な調整業務
現場における調整業務として予想される事項とその処理方法は、契約書及び「標仕」に定められている。最近では、発注者としての調整が必要な近隣等との折衝や周辺環境の保全、受注者等からの施工方法の提案への対応等、監督職員の調整業務が広がりつつある。この項では、主として「標仕」に規定されている次の項目について記述するが、調整を行った結果としては、請負工事の変更を伴う場合もあり、予算の裏付けや変更仕様の決定等、監督体制の中だけでなく関係者との調整が必要になる。
(a) 疑義に対する協議(「標仕」1.1.8参照)
(b) 工事箇所並びにその周辺にある地上及び地下の既設構造物、既設配管等に対して、支障を来たさないような施工方法等を定めることが困難な場合(「標仕」1.3.7(4)参照)
(c) 災害時の安全確保(「標仕」1.3.9参照)
(d) その他
(2) 主な調整方法
(ア) (1)(a)による調整
通常、工事現場で生じる調整は、疑義に対する協議によるものが主であり、その処理方法は、「標仕」1.1.8に定められている。
この調整の対象は、受注者等の単なる思い違いに属することから、設計図書作成時には予想できなかった事項に至るまで多種多様である。単なる思い違い等は別として、処理方法には次の二つがある。
① 設計変更
1) 契約変更と同時に行う場合
2) あらかじめ文書により変更内容を通知しておき、後でまとめて契約変更する場合
② 設計変更に至らない事項
「標仕」1.1.8 (3)でいう「設計図書の訂正又は変更に至らない事項」であるかどうかは、主として監督職員が自己の権限の範囲で判断することになる。しかし、判断の誤りを防ぐために1.0.4(1)(イ) に記述したとおり、上司への報告や記録の提出を確実に行わなければならない。
(イ) (1)(b)及び(c)による調整
協議又は報告のあった場合には、速やかに上司に報告しなければならない。特に、一般的な処置では、災害又は公害等の発生を未然に防ぐことが困難な場合を想定した(1)(b)に関する調整及び災害又は公害が発生した場合を対象とした(1)(c)に関する調整は、その内容の判断が難しい場合が多いので、直ちに上司に報告しなければならない。また、事態が急を要し、報告とともに対策も監督職員に迫られるような非常の場合には、被害の拡大の防止(特に二次災害の防止)、必要関係方面との連絡、現場保存、記録及び情報の収集に努めなければならない。このような場合に備えて、工事現場内の電話機のそばに非常時連絡先の一覧表を掲示しておくなどの処置が必要である。
なお、事故発生時には、現場代理人が監督職員に直ちに通報することを徹底しておくことが重要である。
(ウ) (1)(d)による調整
「不合格施工が発見された場合」に、それが容易に修正できるものの場合は再施工を指示すればよいが、例えば、構造体のコンクリート強度の推定試験が不合格となった場合(「標仕」6.9.5(2)参照)、あるいは、材料・施工等に大量の不合格が発生した場合等は、調整が必要となるので、処理方法に従って速やかに上司に報告し、その指示を受けなければならない。また、監督職員が調整に努めても受注者等が非協力的であるなど、監督職員の権限に基づく指示を受け入れない等の場合も同様である。
(3) 主な調整業務の体系
上述した調整業務をまとめると図1.0.3のようになる。
図1.0.3 主な調整業務の体系
1.0.7 監督業務の記録
監督業務の記録としては、事務処理要領の第12 (1.0.2(エ) 参照)に「監督に関する図書」が定められている。また、「標仕」には、受注者等が監督職員に報告するものが定められているが、それらの事項のうち事務処理要領の分類と対応するものを次に示す(表1.0.1参照)。
なお、受注者の提出する図書の書式は、「公共建築工事標準書式」(国土交通省官庁営繕部制定)によるほか、受注者との協議による(「標仕」1.1.5(1))。
(ア) 第一号に対応するもの
契約料に基づく工事の履行報告に当たり、監督督職員に提出すると特記された書面等。
(「標仕」1.2.4 (1)参照)
(イ) 第二号に対応するもの
「監督職員の指示した事項及び監督職員と協議した結果についての記録」
(「標仕」1.2.4(2)参照)
「工程表、施工計画書その他」(「標仕」1章2節参照)
(ウ) 第三号に対応するもの
「材料」及び「施工」に関する報告及び検査並びに立会いの記録
(「標仕」1章4節及び5節参照)
表1.0.1 現場に必要な主な書類